エロ小説を書いていて、「抽送」って漢字変換し辛いなと思ってたんだけど、なんと実際にはない言葉だったとは…。 pic.twitter.com/AKNDbJJaeg
— 月見ハク🔞Fantia「義妹フィーネの調教生活」 (@tukimi_haku) 2022年6月22日
へー。そんな言葉は知らなかったよ。
これは興味深い。
と思うのと同時に、「ホントかな~?」とも思った。
なので、早速調べてみよう。
千金百花不如一葉:エロい日本語について
によると、「抽迭」という言葉は存在せず、「抽送」は中国由来でエロ用語である。ということらしい。
これが2008年3月の記事
ぐらんぴ日記 困った用語辞典
には、上記ライブドアブログと同様のことが書いてある
さらに、
ピストン運動 (ぴすとんうんどう)とは【ピクシブ百科事典】
によると、「抽送」は「抽迭」の誤字が広まったものという、フランス書院のフランス文化用語辞典ネタを真に受ける方が時々いる。
と書いてあり、「誤字により広まったもの」、という説がネタであり本当ではないという。
とまぁ、これで調べ終わっては面白くないので自分でも調べてみる。
同じ視点で調べても意味がないので、中国の友人に聞く、とかじゃない方法を選択してみる。
「抽送」の類義語や言い換え・同義語-Weblio類語辞典
類語辞典・シソーラス・対義語 - Weblio辞書
では、「繰り返し行ったり来たりする運動のこと」となっている。
「抽送」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書
同じくWeblioの実用日本語表現辞典では、「主に中国語圏で、送ること、または、いわゆるピストン運動(特に性交におけるそれ)を指す意味で用いられることのある俗な表現。半ばアダルト用語。」
となっている。
論文検索
さて、ここから先は学術的にいってみよう。
https://doi.org/10.32136/jsdr.10.1_12
で閲覧出来る2006年の論文
水分嚥下量と口蓋舌筋活動
―ガムシロップを用いて―
尾島 麻希, 舘村 卓, 奥野 健太郎, 野原 幹司
この中に
>食塊が口腔から咽頭へ抽送される段階
という一文がある。
また、
https://doi.org/10.32136/jsdr.7.1_41
で閲覧出来る論文
摂食・嚥下活動における鼻咽腔閉鎖機能の調節
―咀嚼運動を模した舌変位時の方向と口蓋舌筋活動の関係―
舘村 卓, 尾島 麻希, 野原 幹司, 和田 健
2003年の論文には、
>口腔の食塊は舌運動により奥舌上に抽送された後
>喉頭蓋谷に送られていた食塊とともに食道へ抽送される
という一文がある。
同様に、摂食・嚥下障害関連の論文では2002年にも同じような使い方があり、フランス書院がいうほどエロに特化した言葉とは思えないが、とは言え、それほど頻出する言葉でもない。
さらに、原文が中国由来では、
http://www.ritsumei.ac.jp/ir/isaru/assets/file/journal/13-1_ka.pdf
に
>但し,決定打の卓越した卓球外交の「抽送」50)は,激越にして精巧な二刀流である
>卓球の術語として,「抽」はスマッシュ,「送」(「 」とも言う)はフィード(ボール・パック)
という使い方が出てくる。卓球の用語らしい。
2000年発表の文です。
上記、関連データ
UTokyo Article Link
はたまた、
http://id.nii.ac.jp/1629/00005612/
唐河西以西の伝馬坊と長行坊(1989年)
にある
https://toyo-bunko.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=5619&file_id=22&file_no=1
には、
王冀青氏が、伝馬坊の設置を唐の州県全般に認める根拠として、『唐大詔令集』巻二「中宗即位赦」の一節「(略)以外、抽送外州馬坊及本監牧」を掲げる
という文があり、やはり中国では使われているのかも知れないことがわかる。
新聞検索
さて、ここらで調べ方をちょっと変えてみて、新聞検索をやってみよう。
全期間で「抽送」を横断検索してみると12件該当あり。
化学工業日報、1件
朝日新聞、2件
日刊スポーツ、3件
産経新聞、2件
佐賀新聞、1件
FujiSankeiBusiness、1件
読売新聞、1件
そのうち、一番古い記事である
読売新聞の記事は1987.08.24 東京朝刊
の該当する極一部のみを引用すると、
ケーブルが湾曲しており、ケーブルの抽送をスムーズにするため
という使い方であった。
ケーブルの油圧に関することらしい。
さらに次は官報から検索してみる。
しかし、昭和22年から令和4年まで検索してもヒット数0だった。
少しは該当あるかと思ったのに、まったくなくて意外な感じ。
まとめ
ということで、まとめです。
「抽送」という言葉は一般的ではないものの、中国では古くから使われており、日本での起源などはわからないものの、医学用語として、あるいは油圧系の専門用語として使われていた言葉であるので、官能小説が間違って作った言葉という訳ではない。
官能小説の分野で使われたことで普及したというのも事実かも知れないが、そちらは未検証。
以上です。